5.HACCP導入具体例①~小規模な一般飲食店

ここでは、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理を導入するための方法についてより具体的なお話をしていきます。

ここでもう一度
『【3】 HACCP導入の手順』
『【4】HACCPの考え方を取り入れた衛生管理を導入する上で知っていただきたいこと』を読んでいただくと、これからご説明することがよりわかりやすくなると思います。

さて、今までも紹介してきました日本食品衛生協会や各業界団体が作成した「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の手引書。現在、100業種近くが厚生労働省のホームページに掲載されています(2021年7月末現在)。
HACCP導入の参考にするために、ご自身の施設やお店の取扱い品目・営業形態、あるいはそれに近い手引書を前もって手元に用意しておいてください。

ここでは、その中からいくつかをピックアップして順番にご説明していきたいと思います。

まずは、一般の飲食店から始めたいと思います。
「小規模な一般飲食店事業者向け」手引書をお手元にご用意ください。
なお、惣菜を作っているお店では「惣菜製造の手引書」、焼肉店では「焼肉店向け手引書」、さまざまな食事提供スタイルがあるホテルは「ホテルでの着席・ビュッフェを中心としたスタイルによる食事提供において:手引書」なども参考になると思います。

●HACCPの考え方を取り入れた衛生管理

「小規模な一般飲食店事業者向け」

Step1 衛生管理計画の作成
「一般的衛生管理」「重要管理」に分けて作成します。

1)一般的衛生管理の計画作成(手引書の【一般的衛生管理のポイント】参照)
「原材料の受入」、「衛生的な手洗」、「器具の洗浄殺菌」、「冷蔵庫、冷凍庫の温度管理」、「従業員の健康管理」、「トイレの清掃」などを、
【いつ】、【どのように】、【問題があったとき】の視点でそれぞれ文書化します。
ここでのポイントは、手引書通りすべての項目の計画を作成するのではなく、あなたのお店に該当するものだけを作成すればよいのです。
例えば、スーパーマーケットのテナントショップで「トイレの清掃」が不要であれば計画から除きます。
逆に手引書にない項目があれば計画に追加してください。

2)重要管理の計画作成(手引書の【重要管理のポイント】参照)
食品には様々な調理形態があります。
まずは、有害な微生物が生残・増殖する「危険温度帯」に着目して、下記の例を参考に、代表的なメニューをグループ分けしてみましょう。

例えば、カレーの場合、「加熱調理してから一旦冷却して再加熱」する場合は下記の分類になりますが、「冷却せず、その日の内に使い切る」や「市販のレトルトカレーを温めて提供」する場合は、「2.加熱して、熱いまま提供」になります。

また、マッシュポテトでも、出来上がったマッシュポテトを仕入れて生のキュウリや玉ねぎを混ぜたものは、「1.非加熱のもの」になります。

次に、それぞれの管理(チェック)方法を記載します。
ここでのポイントは、今までの経験を生かして具体的にチェック方法を記すことです。
例えば、天ぷらの場合は、油の音、泡の大きさ、揚げ色で出来上がりを判断します。

また、焼肉店のように、客が肉を焼く場合は、重要管理の分類に「客が調理する」という項目を追加し、管理(チェック)方法として、「肉の中心部まで十分加熱する」ことや「生肉と焼いた後のトングや箸を別にする」などの注意書をメニューへ記載したり、壁に掲示したり、口頭で注意することにすればよいとなっています。

さて、ここで【演習問題】です。実際にやってみてください。

【演習問題】
カツカレー定食(カレー、とんかつ、福神漬け、ごはん、マカロニサラダ)について
1.それぞれを分類し、
2.チェック方法を考えてみてください。
※答えは下記にあります。

Step2 衛生管理計画の実行
衛生管理計画ができあがったら、今度はそれを実行します。
すべての関係者が、決められたことを決められた通りに実行することが大切です。

次回はこの続き、飲食店のHACCP導入の「Step3」および「Step4」をご説明します。

【演習問題の答え:カツカレー定食】
(あくまでも一例です。調理方法やお店によって異なる場合があります。)

Step3 実行した内容の確認・記録
今まで衛生管理をしっかり行っていたお店でも、専用の記録用紙を用いて日々の衛生チェックや、問題があったときの改善措置などを記録しているところはあまり多くはないと思います。
HACCPにおいては、「記録なくしてHACCPはない」と言っても過言ではありません。
ここでは、その大切な「記録」についてご説明したいと思います。

・なぜ記録が大切なのか
1.適切な管理を行って安全な食品が調理(製造)されたことを証明でき、顧客や保健所が衛生調査する上で有用な資料となる。
2.食品の安全性に係る問題が発生したときに提供(販売)されたメニュー(製品)から受入原材料まで記録表をさかのぼって、問題のある
対象製品の範囲を特定し、原因究明をすることができる。

・記録する上での注意点は?
1.至極当然のことですが、事実と異なったことを記さない。
2.容易に訂正できない筆記用具(ボールペン等)を使い、訂正する場合は、例えば二本線で消し、新たに記入する。
また、訂正した人の名前を記し、誰が訂正したかということを明確にする。
3.結果を予測して記入してはならない。
4.後で、記憶により記入してはならない。
5.問題があったときは、日時、内容、対応、改善策、担当者名等を記録し、責任者が確認しなければならない。

※HACCPは、危害が発生した後に対応するためのものではなく、危害の発生を未然に防止するための衛生管理システムです。
このシステムを適切に機能させるためには、良い評価でも悪い評価でも正しく記録し、問題があったときは迅速に対応することがお客様の健康を守り、ひいてはあなたのお店自身を守るために必要不可欠なことなのです。

Step4 見直し(振り返り)
最初から完璧な衛生管理計画を作成することは、簡単なことではありません。
見直しとは、作成した衛生管理計画通りに衛生管理が実施されているかどうか、また計画に修正が必要かどうかを判断し必要に応じて加筆修正することにより、より優れた計画にしていくものです。
1か月程度を目安に定期的な見直しを実行しましょう。

その他
・記録の保存の方法および期間
保存の方法は、ペーパーで保存するほかにパソコン等電磁的に保存しても問題ありません。
ただし、記録された事項が変更(改変、消去等)した場合、その内容を確認できるようにしておくことなど注意が必要です。
(厚生労働省:HACCPに沿った衛生管理の制度化に関するQ&A参照)

また、1年程度(賞味期限が1年を超える場合は、賞味期限プラスアルファの期間)保存して、いつでも保健所の監視員などに提示できるようにしておいてください。

・手順書の作成
必要に応じて手順書を作成します。

例えば、
「まな板や包丁の洗浄消毒のタイミングやその方法」
「手洗いのタイミングや正しい手洗いの方法」
「食品機械の洗浄殺菌方法とメンテナンス」
「冷蔵庫、冷凍庫の温度測定・記録と温度異常時の対処方法」
など、担当者によって解釈が異なることがないようにイラストなどを活用し簡潔にわかりやすく作成します。

・食品取扱者等への教育
HACCPなど優れた衛生管理システムを導入し、また最新の食品機械を購入しても、期待通りの成果を出すためにはそれらを運用する食品取扱者全員にかかっています。
「なぜ行うのかを理解させ」「具体的にどのように行うのかを示し」「実際にやらせてみて」「結果を評価して、必要に応じて再指導する」を繰り返すなど、根気よく続けることが衛生管理の向上につながります。
なお、衛生講習会などを実施した場合は、日時、受講者名、講習内容等を必ず記録して保存してください。

以上、いかがでしたでしょうか。
Step1~Step4及びその他(記録の保存、手順書の作成、教育)、いずれも大切なことばかりですが、特に各項目の〇(良)、×(否)を評価して記録するときは、厳しい目で真実を記さないとHACCPは全く意味のないものになってしまいます。

長期間すべて〇(良)ばかりの記録簿って、逆に皆さまは違和感を持たれないでしょうか・・・・・・・